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大阪高等裁判所 昭和35年(ネ)1565号 判決

控訴人 附帯被控訴人(申請人) 電機労連北条地区合同労働組合

被控訴人 附帯控訴人(被申請人) 株式会社小畑鉄工所 外一名

主文

第九五一号事件につき、控訴人の控訴を棄却する。

控訴費用は控訴人の負担とする。

第一五六五号事件につき、附帯控訴人等の附帯控訴を却下する。

附帯控訴の費用は附帯控訴人等の負担とする。

事実

控訴人(附帯被控訴人、以下控訴人と略称する)は第九五一号事件につき、原判決を取消す、神戸地方裁判所社支部が同庁昭和三五年(ヨ)第一一号仮処分申請事件につき、昭和三五年三月一日になした仮処分決定はこれを認可する、訴訟費用は被控訴人等の負担とするとの判決を、第一五六五号事件につき附帯控訴棄却の判決を求め、被控訴人(附帯控訴人、以下被控訴人と略称する)等は第九五一号事件につき主文第一項同旨の判決を、第一五六五号事件につき、原判決に仮執行の宣言を附すべきことを求めた。

当事者双方の事実上の主張、疏明方法の提出、援用及び認否は、控訴人において、労働者の有する個々の権利は、これを全体として捉えた場合、労働者が組織する労働組合自身の権利となるものであるから、控訴人自身本件仮処分の被保全権利を有するものである。

仮りに然らずとするも、社会的に一の活動体として労働組合が結成された場合、その労働組合は人格的権利を有するものであるから、控訴人自身本件仮処分の被保全権利を有するものと認むべきである。

仮りに然らずとするも、現在わが国における労働組合は企業体内組合であつて(控訴人も然り)、企業の廃止自体労働組合の破壊を意味するから、企業の存否は労働者の団結権の存否と相関連するものであると陳述し、

被控訴人等において、民事訴訟法第七五六条により仮処分に準用される同法第七四八条によれば、同法第五四八条により、仮処分を取消す判決には仮執行の宣言を附することを要するに拘らず原判決はこれを附していないから、原判決に仮執行の宣言を附すべきことを求めると陳述し……(疎明省略)……た外、原判決摘示事実と同一であるから、これを引用する。

理由

控訴人が本件仮処分申請事件の本案訴訟として、被控訴人等を相手方とする会社解散決議並びに清算人選任決議無効確認の訴を神戸地方裁判所社支部に提起したことは当事者間に争がない。

そして弁論の全趣旨に徴すると、控訴人は右本案訴訟において、被控訴会社は昭和三五年一月八日会社解散と全従業員の解雇を発表した上、同月二九日の株主総会で会社を解散し、被控訴人糟谷を代表清算人に選任する旨の決議をなしたが、右決議は専ら、控訴人組合を抹殺するため偽装されたものであつて無効である旨の主張をなすものであることが認められるけれども、原審における控訴人代表者本人尋問の結果によれば、控訴人は小畑鉄工所支部外三支部の組合員をもつて組織された労働組合であつて、各支部は独自の規約を有せず、控訴人組合を離れて独自の活動をなすものでない事実が認められるから、控訴人主張の解散が、仮りに控訴人の主張するが如き偽装解散であるとしても、右解散は控訴人自体の存立に直接関係するものではなく、単に控訴人組合小畑鉄工所支部の組合員即ち控訴人組合を組織する組合員中、被控訴会社に雇傭されている者を一斉解雇せんがため偽装されたものと称し得るに止るといわなければならない。

そしてまた控訴人が主張する解散がその主張の如き意図をもつてなされたものであるとするならば、右解散は実質上、控訴人組合所属の組合員中、被控訴会社に雇傭されている者の一斉解雇であり、問題の中心は解散決議そのものの効力というよりも、それと表裏一体をなすが如き一斉解雇の効力であるといわなければならないから、本件仮処分の本案訴訟は形式は解散決議の効力を争う訴訟であるけれども、実質は労働組合を組織する組合員中の一部の者の解雇の効力を争う訴訟であるということができる。

ところで労働組合は、特段の事由のない限り、組合員の解雇の効力を争う訴訟について当事者適格を有しないものと解すべきであるから、組合員中の一部の者の一斉解雇と表裏一体をなすが如き解散並びにこれに伴う清算人選任決議の効力を争う訴訟についても同様に解するのが妥当である。従つて、首肯すべき特段の事由の存在することの主張のない本件においては、控訴人は右本案訴訟について当事者適格なく、またその本案判決執行保全のためにする仮処分申請事件についても全く同様の関係にあるものというべく、控訴人は本件仮処分申請事件について当事者適格を有しないものである。

控訴人は、労働者の有する個々の権利はこれを全体として捉えた場合、労働者が組織する労働組合自体の権利となるものであるから、控訴人自身本件仮処分の被保全権利を有するものであると主張するけれども、労働者が使用者に対して有する個々の権利は、仮令全体としてこれを捉えた場合でも、労働組合自体の権利となるものではなく、またその権利について処分権を取得するものではないと解すべきであるから、控訴人の主張は採用しない。

控訴人は、社会的に一の活動体として労働組合が結成された場合、その労働組合自体人格的権利を有するものであるから、控訴人自身本件仮処分の被保全権利を有するものであると主張するけれども、控訴人の主張するような偽装解散が行われた場合、仮りに控訴人がこれについて事実上利害関係を有するとしても、直接侵害される権利は労働者に属するものであるから、控訴人自身人格的権利を有することを理由として控訴人に右偽装解散の効力を争う訴訟あるいはこれを本案訴訟とする仮処分申請事件について当事者適格ありと解すべきものではない。

更に控訴人は、現在わが国における労働組合は企業体内組合であつて(控訴人も然り)、企業の廃止自体労働組合の破壊を意味すると主張するけれども、控訴人組合が小畑鉄工所支部外三支部の組合員をもつて組織され、被控訴会社に雇傭された労働者のみで組織されているものでなく、すくなくとも被控訴会社の解散が直ちに控訴人組合の壊滅を意味するものでないことは前記認定のとおりであるから、控訴人の主張は失当である。

控訴人は、被控訴会社の清算手続が進められるにおいては、控訴人組合の組合員が被控訴会社に対して提起している解雇の効力停止並びに賃金支払の仮処分申請事件の目的達成の途を失うこととなると主張するけれども、このことも結局被控訴会社を解雇された控訴人組合の組合員と被控訴会社との間の法律関係に関する事柄であつて、右組合員が対策を講ずべき問題であり、控訴人に右解散の効力を争う本案訴訟あるいはその執行保全のための仮処分申請事件について当事者適格を認める理由とはならない。

すると控訴人に当事者適格なしとして本件仮処分決定を取消しその申請を却下した原判決は正当であるから、本件控訴は棄却を免れない。ただ原審は前示判決をなすに当り、民事訴訟法第一九六条第一項にもとずき職権をもつて仮執行の宣言を附することをしなかつたが、原判決のような場合にはこれを附するのが相当である。被控訴人等は同法第五四八条が準用されると主張するけれども、右規定は仮処分取消の判決をなす場合には準用なきものと解すべきである。しかしながら本件は仮処分に関し第二審としてなす判決であつて、同法第三九三条第三項により上告をなすことを得ず、言渡と共に確定するものであるから(特別上告は本判決の確定を妨げるものではない)、被控訴人等は当審において原判決に仮執行の宣言を付すべきことの申立をなす利益を有せず、従つてその申立をなすがためにのみなされた附帯控訴もまたその利益がないこととなるから、本件附帯控訴は却下すべきものである。

よつて民事訴訟法第九五条、第八九条に従い主文のとおり判決する。

(裁判官 大野美稲 岩口守夫 藤原啓一郎)

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